最近、「外国人労働者なんて安い労働力を入れるべきじゃない」「賃上げすれば人は集まる」「生産性を上げれば解決する」といった“正論”を語る政治家や評論家を多く見かける。
しかし、現場の実情を少しでも知っている人ならわかるだろう。
これらの言葉は、10年前の状況から思考停止した見当違いも甚だしい机上論だ。
そもそも外国人労働者は安い労働力なのか
厚生労働省「外国人雇用状況」統計によると、技能実習生の平均賃金は月額約17~20万円程度。これは最低賃金水準で雇用されるケースが多いためだ。
しかし忘れてはならないのは、
- 日本人と同等以上の賃金が制度上義務付けられ
- さらに監理費(月額3万~5万円程度)、送出機関費用、講習費、渡航費などが別途かかる。
結果的に、受入企業にとっては
日本人を雇うよりもコストは高くなる
のが現実だ。
「賃上げすれば人は集まる」という幻想
たしかに賃金は重要だ。しかし、今の日本社会では、多少給料を上げた程度で若者がきつい肉体労働や危険作業を選ぶ時代ではない。
実際、2023年の厚労省統計によると、
建設業の有効求人倍率は約7.64倍(全職種平均の4倍以上)
運輸業でも3.15倍と依然として高く、
これだけ求人を出しても人が集まらないことが明らかだ。
さらに、技能実習生ですら
「屋外作業は嫌です」
「屋根のある工場がいいです」
と希望する時代になっている。
「生産性を上げればいい」という無責任さ
生産性向上も重要だが、現実には限界がある。
⚠️ 例えば建設業:
- 大手ゼネコンはすでにBIM、ICT建機、遠隔操作などを導入済み
- 中小は導入費用が捻出できず、労働集約に頼らざるを得ない
⚠️ 例えば介護業界:
- 厚労省「介護職員処遇状況等調査(2023)」によれば、
介護職員平均給与は月額約28.5万円と公表されているが、
人員配置基準が法定化されているため、人を減らして効率化することはできない。
結局、
「それができるならとっくにやってる」
という話だ。
それにも関わらず「外国人=安価な労働力」と決めつける政治論
こうした誤解を煽る政治家や報道は、
- 技能実習制度の真の問題(失踪者の放置、行き過ぎた監理の強要など)を論理的に解決する議論を妨げ、
- 現場で適法適正に運用している組合や企業を不当に批判する結果となっている。
本来議論すべきは、制度の適正化と改善であって、「外国人労働者は安いからダメ」と一括りに排除することではないはずだ。
安易な綺麗事が現場を苦しめる
人手不足で現場が崩壊しかけている今、
- 「外国人労働者は安いからダメ」
- 「賃上げすればいい」
- 「生産性を上げればいい」
と叫ぶだけでは何も変わらない。
安易な綺麗事や理想論が現場を追い詰めるだけであることを、そろそろ理解してもらわなければならない。
現実的な議論を
- 最低限必要な外国人労働力を確保しつつ
- 自動化・省人化投資への補助金や税制優遇を強化し
- 産業構造全体の転換をセットで考える
こうした総合的かつ現実的な議論が求められている。
「外国人労働者=安い労働力」という時代はとっくに終わっている。
今や彼らも働く場所を選ぶ時代だ。
私たちはもっと冷静に、そして真剣に、これからの日本の労働力確保と産業存続を考えていかなければならない。
(数値出典)
- 厚生労働省「外国人雇用状況報告」2023
- 厚生労働省「職業別有効求人倍率」2023
- 厚生労働省「介護職員処遇状況等調査結果」2023