例年行われる厚労省の発表
近年毎年、夏が終わる頃、厚労省から次のような発表があります。

外国人技能実習生の実習実施者に対する令和2年の監督指導、送検等の状況を公表します
引用元:厚生労働省
内容としては、全国の労働基準監督署が監督指導を実施した技能実習の実習実施者(受入企業)8,124事業場のうち、5,752事業場(70.8%)で労働基準関係法令違反が認められた、というものです。
ちなみに、今回は70.8%ですが、例年このくらいの数字で、約7割です。
そして、この7割という数字に過剰反応して、技能実習制度は廃止か抜本的な見直しが必要!などと叫ぶ人が出てくるのも通例となっています。
マスメディアや割と有名なYoutuberでさえネタにしていますが、情報に誤解があったり、ミスリードを誘うものであることがほとんどです。
「全体の7割が違法」は完全に誤解です

まず確認すべきは、「技能実習生の受入企業全体の7割が違法行為をしている」というのは誤解だということです。
全体の7割が違法だとしたら、それはとんでもない!と思いますよね。
実際、そう読めてしまうメディア記事も多々あります。
例えばこんな記事です。
外国人実習生が働く事業所を立ち入り調査 70%で違反を確認
2021年9月12日 4時19分
外国人技能実習生を受け入れている事業所に労働基準監督署が去年、立ち入り調査を行った結果、およそ70%の事業所で、安全管理に関する違反や違法な時間外労働などが確認されたことが、厚生労働省のまとめで分かりました。
引用元:NHK NEWS WEB
これ、見出しとリードを見る限りでは「技能実習生の受入企業全体の7割は違法行為をしている」と思ってしまいますよね。実際にここだけが切り取られるとそうなります。
ところが、厚労省の発表記事に書いてある通り、この7割の母数は「全国の労働基準監督署が監督指導を実施した8,124事業場」であって、当然ながら、すべての受入企業の事業場に監督指導を実施したわけではありません。
監督指導を実施した事業場は全体のごく一部であり、あくまでもそのごく一部のうちの7割が違法であって、決して全体の7割が違法ではないのです。
実習生やその関係者等から通報や告発があり、労基署が「問題あり」と判断して監督指導に行った事業場のうち、7割に違法行為があったというだけの話です。
つまり、この7割という割合には特に深い意味などなく、「通報が如何に妥当だったか」もしくは「労基署の問題ありという判断が如何に妥当だったか」を示す指標でしかありません。
私見ですが厚労省の役人の方々は、自分たちの仕事の効率性を示す値としてこの割合を表記しているものと勘繰られます。イメージ的には検挙率みたいなもので、業績評価のKPIにでも設定しているのではないでしょうか。
しかし優秀な役人の方々も、このような誤解を生むことは想像できないのでしょうか。
NHKだけではありません。上記の類の記事は他にもいくらでも見受けられます。単純に思慮が浅くて勘違いをしているだけならまだしも、意図的に読者のミスリードを誘っているとしたら、そこにはもう悪意しかありません。
技能実習生に限らない同種の調査でもほぼ同じ結果です
似たような内容で、こんな調査結果も毎年発表されています。

東京都内の労働基準監督署における令和元年(平成31年)の定期監督等の実施結果
引用元:厚生労働省東京労働局
~75.5%の事業場に法違反の改善指導を実施~
内容は、東京では、定期監督等の実施事業場数が 12,326 事業場で、このうち、9,308 事業場(全体の 75.5%)で労働基準関係法令違反があった、というものです。
同様の情報を各地方労基署がそれぞれ発表しているのですが、大体7割です。
ただ、上記の東京の場合、ナント違法の割合が 75.5% です。
単にこの割合だけを問題視するならば、技能実習生よりも日本人の労働者の方がヒドイ目にあっているということになりませんか。
定期監督等とは、各種の情報、労働災害の報告などを契機として、労働基準監督官が事業場に対して実施する検査のことです。その際、労務管理や安全衛生の状況を確認し、法令違反などがあれば是正・改善を指導します。
引用元:同上
資料の冒頭ではご丁寧に(全体の75,5%)などと記載されていますが、もちろん母数は東京都の全事業場であるはずがなく、全体から見たらごく一部の事業場です。
ちなみに、これだけの情報では、技能実習生よりも日本の労働者の方がヒドイ目にあっているとは言えません。本当の母数(全事業場の数)がわからないからです。
でもおそらく同じような割合だとは察しがつきます。技能実習生だろうが日本人だろうが、ちゃんとするところはするし、しないところはしないのです。
あと、唯一わかることは、アヤシイところを調査したら、大体7割ぐらいは違法なことをやっているということだけですね。
実際の違法企業の割合を試算してみると..?

それでは、技能実習生の受入事業場「全体」の中で、実際に違法行為をしている割合はどのくらいでしょうか。
残念ながら、本来の母数である「受入れ事業場の全体の数」はデータとして見つかりませんでした。
そこで、次の情報から試算してみます。
・令和2年末の技能実習生の数は、378,200人
(令和2年末現在における在留外国人数について – 法務省)
・技能実習生の受入れ人数の平均は、8人
(企業における外国人技能実習生の受入れに関する調査 – 労働政策研究・研修機構 ※pdf)
・令和2年に労働基準関係法令違反が認められた事業場の数は、5,752事業場(前述 – 厚労省)
■技能実習生受入れ事業場の総数 378,200 ÷ 8 = 47,275事業場
■違法事業場の割合 5,752 ÷ 47,275 × 100 = 12.2%
違法事業場の全体に対する割合の試算結果は 12.2% です。70.8% ではありません。
さて、いかがでしょうか。
この結果に対する私の思いは次項で述べますが、おそらく言えるだろうと思うのは、技能実習に限らず、労基法違反をしている企業が日本にはこのくらいの割合で存在する、ということです。
つまり、現状の日本はこういう国なのです。
確かに、技能実習生の関連で問題は多く発生しています。これは技能実習制度自体に内在する問題ももちろんありますが、日本の企業の遵法精神の問題とその監督の問題にも根深いものがあると思います。
日本人労働者も技能実習生と同じぐらいの割合で、違法な労働環境下で働いているということなのです。ただ、日本人はイヤならその企業を辞められますが、技能実習生は原則として辞めることができない。その違いが技能実習の問題をより大きくしています。
技能実習については明確な解決策があります

技能実習生の受入れ事業場の 推定12.2% が労基法違反というのは、大変嘆かわしいことですし、日本の恥部を世界にさらす行為だと思います。
米国務省からもクレーム(?)がきていましたね。
でも、ご安心ください。
技能実習については、明確な解決策があります。
それは、監理団体がきちんと仕事をすることです。
技能実習にまつわる諸問題は、受入企業の問題、送出し機関の問題、そして実習生自身の問題と様々な要因が複合的に絡んでいるのが実態ですが、一言で言ってしまえば一番罪深いのは監理団体です。
何故なら、全てのステイクホルダーの利害関係を把握し理解した上で、技能実習制度の運用の監理・監督を任されているのが監理団体だからです。
・送出し機関を厳選する
・受入企業を監督する
・実習生をサポートする
これらは全て監理団体の責務です。
監理団体が法を遵守し本来の役割を全うしていれば、何も問題は発生しません。
4年前の法改正で、技能実習はそういう制度になっています。
キャリアグローブ協同組合では、そのことを肝に命じながら、今日も実習計画認定申請書を作成しています。
外国人技能実習制度は、運用の段階で様々な問題を抱えているのは事実です。
制度自体も、他の在留資格(特定技能など)も含めて改善の余地は多々あると思います。
ただ一方で、全体の9割近い4万箇所以上の事業場では制度を正しく活用しており、現在83職種151作業にも上る分野で、経営にうまく役立てながら日本経済に貢献しているのも事実なのです。